有機エレクトロルミネッセンス
有機エレクトロルミネッセンス((Organic Electro-Luminescence、OEL、有機EL)あるいは有機発光ダイオード(Organic light-emitting diode、OLED)あるいは発光ポリマー(Light Emitting Polymer、LEP))とは発光層が有機化合物のフィルムから成る発光ダイオード(LED)である。有機化合物中に注入された電子と正孔の再結合によって生じた励起子(エキシトン)によって発光する現象を利用している。日本では伝統的に有機ELと呼ばれることが多い。
厚さがミリメートルサイズ以下の超薄型ディスプレイや照明等へ応用できる。現在携帯電話などの携帯機器に使われており、今後は薄型テレビ(液晶やプラズマディスプレイなど)に代わる次候補のディスプレイとして、有機EL市場は年間約50-70%で成長している。2012年には市場規模が1兆円を超えると言われており、日本、韓国、ドイツの化学企業、電気家電企業、印刷企業を中心に積極的に実用化に向けた開発が進められている(2007年段階)。
基本的な構造と発光原理
有機ELの構造
有機ELの基本単位は概略図のような発光素子であり、有機ELディスプレイはドットごとに発光素子が構成されている。その発光素子は金属等の陰電極/電子注入層/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層/ITO等の陽電極そしてガラス板や透明のプラスチック板などの基盤よりなる。電子・正孔注入層や電子・正孔輸送層が無い種類もある。
こうしたサンドイッチ状の構造はヘテロ構造と呼ばれ、電子と正孔をそれぞれ別の層に閉じ込めることによって効率的な反応を起こすことができる。それぞれの層にはジアミン、アントラセン、金属錯体などの有機物が使われている。
電極間の各層の厚さは数ナノメートルから数百ナノメートルであり、多層構造にしても全体で1マイクロメートル以下程度の厚さしかない。また、基盤もフレキシブルなプラスチック板等を利用することにより、フレキシブル(曲げられる)ディスプレイや照明の製造も可能である。
有機ELの発光原理
発光の原理としては、陰電極および陽電極に電圧をかけることにより各々から電子と正孔を注入する。注入された電子と正孔がそれぞれの電子輸送層・正孔輸送層を通過し、発光層で結合する。
結合によるエネルギーで発光層の発光材料が励起される。その励起状態から再び基底状態に戻る際に光を発生する。励起状態(一重項)からそのまま基底状態に戻る発光が蛍光であり一重項状態からややエネルギー準位の低い三重項状態を経由し、基底状態に戻る際の発光を利用すればりん光である。励起しても光に上手く利用できないエネルギーは無放射失活(熱失活)する。
陰電極は銀やアルミニウム等の金属を使い陽電極はITOなどの透明な物質を使うため、陰電極をバックミラーとし透明電極と基板(ガラス板やプラスチック板など)を透過するため光が素子から出る。
発光材料
有機EL素子の主要部は発光層であるが、その発光層に使用される発光材料には様々な材料が試されてきた。それらは大きく高分子と低分子のどちらかに分けられる。ポリマー状の分子を用いたものが高分子材料であり、それ以外の分子を用いたものが低分子材料である。
高分子材料
高分子材料は、それをインクとした印刷技術の応用により、大量、安価、大型な有機ELデバイスが容易に生産できると言われ、次世代の材料として日本国内の大手印刷会社・化学企業・電気家電メーカー等で研究開発が続けられている。しかし高分子材料で有機EL素子を作成する場合、層間の材料同士が溶解しやすく、有機ELに不可欠な前述のへテロ構造を持たせることが非常に困難である。そのため単層ないし少数の層の素子構造しか出来ず、多くの機能(各層の機能)をこれら単数または少数の層、および材料に持たせる必要がある。したがって高分子材料の分子設計への要求は低分子材料に較べて非常に高くなり、低分子材料に較べて高分子材料の開発は大幅に遅れている(2007年段階)。
低分子材料
低分子材料は、アルミニウム錯体などを蒸着により薄膜化・積層化することによりデバイスを作成している。2007年11月22日にはSONYより有機ELテレビが発売されるなど、実用化段階に近い。低分子材料は前述の発光原理により蛍光材料とりん光材料に大別できる。
蛍光材料は、前述一重項発光を利用した材料で、光の三原色となる赤・緑・青色ともコスト・寿命・耐久性・成膜性に充分な要件を持った材料が揃い、前述の有機ELテレビに使用されるように実用化の段階にある(2007年段階)。
りん光材料は、前述の三重項発光を利用した材料であり、原理的に蛍光材料よりはるかに発光効率がよい。しかし、光の三原色となる赤・緑・青色のうち、青色で適当な条件を満たす材料が開発されておらず、実用化には至っていない。各社がこの青色りん光材料の開発競争を続けている状況である(2007年段階)。
駆動方式
液晶ディスプレイと同様、ドットマトリクス表示の多数の画素にそれぞれ電極の配線をしようとしても基板周縁部にすべての端子が取り出せなくなることから、TFT(薄膜トランジスタ)などのアクティブ素子を各画素に配置して駆動するか(アクティブマトリクス駆動)、直交させたストライプ電極にタイミングを合わせて電流を流すことでその交点の各画素を順次駆動するか(パッシブマトリクス駆動)のどちらかの駆動方式が使われる。
パッシブマトリクス
パッシブマトリクス駆動は構造は単純だが瞬間的に光らせるのは1ラインであるため、その瞬間の発光輝度を大きくしている。よって素子の寿命が短くなってしまう欠点がある。また、パッシブ方式では(単純マトリクス駆動の液晶ディスプレイと同様)クロストークによる画質低下が問題になる。
アクティブマトリクス
パッシブマトリクス駆動の欠点は大型化でより深刻になるため、大型パネルにはアクティブマトリクス駆動が採用される傾向にある。しかし、同様の事情がある液晶ディスプレイより複雑な回路を組み込む必要がある。
有機ELディスプレイの特徴
有機ELのディスプレイとしての特徴は実用化が進んでいる液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどとの対比で語られることが多い。
応答速度
液晶ディスプレイでは液晶の分子の方向を変えることで輝度を変えているため、応答速度が鈍く動画再生などで問題になる。有機ELは励起子の発光時間が非常に早く電流を変化させれば輝度が瞬時に変化するので、非常に応答速度が早い。また、液晶ディスプレイでは応答速度が環境温度に依存し、低温では応答速度がさらに鈍くなる。しかし有機ELディスプレイでは低温でも応答が変わらない。
視野角
液晶のように見る方向によって階調が変わってしまうことがなく、またコントラストの低下も低く、視野角は180度に近い。プリズムシートで集光して表面輝度を向上させている液晶ディスプレイとは異なりランバート分布に近い発光分布を持つが、マイクロキャビティー効果を用いることで集光させる事も可能である。
解像度
現在の有機ELディスプレイは解像度がシャドウマスクの精度およびそのプロセスで制限されている。現在、シャドウマスク以外の手法、ホワイト+カラーフィルター方式、レーザー熱転写方式(LITI法:3M)、レーザー再蒸着方式(RIST法:コダック、LIPS法:ソニー。違いはドナーシートの材質)と言ったシャドウマスクの制限を伴わない技術が開発されている。また画素には液晶の場合1個以上、有機ELの場合2個以上のTFTが必要な為、高解像度ディスプレイの場合制約となりうるが、トップエミッション方式の開発により制約は無くなりつつある。これらの進歩の結果、すでに300ppiの試作品も現れている。 また、三色の発光層を縦に重ねることによって解像度を高くできる可能性もあるとされている。
発色
有機ELは原理的に共役結合の実効長を分子構造設計によって変化させられる為、任意のエネルギーの励起子すなわち任意の波長の光を取り出せる。これにより、色再現域が広いフルカラーディスプレイが可能である。また、特定の色のみを発光する素子も作れる。有機ELは素子ごとの自発光であるため、視野角によって色が変わる問題(色シフト)が殆ど存在しない。
駆動電圧・消費電力・発光効率
液晶ディスプレイのようにバックライトをカラーフィルタに通して色を出すのではなく色の付いた光を直接出せるためエネルギーの変換効率が高い。また、プラズマディスプレイのような放電発光ではなく有機半導体内の励起子により発光するので発光そのものに必要な電圧も数V程度と低い。また有機ELの発光効率も近年飛躍的に向上している。さらに発光材料として蛍光材料が広く用いられているが原理的に効率の高いりん光材料の開発が進んでおり、さらなる高効率化が期待できる。
コントラスト比
素子の自発光であるため、測定が困難なほどの高コントラスト比を達成できる。
磁気の影響
ブラウン管とは異なり磁気の影響を受けない。
サイズ
ガラス基板2枚で挟み込む構造の液晶と違い基板は1枚であり、加えてバックライトが不要であるため薄型化が可能とされる。発光層の保護のための封止層が課題であるが無機および有機の薄膜を用いたべた封止方式が開発されており、これによって将来は封止層が必要無くなるともいわれている。
フレキシブル
プラスチックなどの基板を使った柔らかくて折り曲げることができるディスプレイの試作品が発表されている。しかし、プラスチックシートを基板に使用すると酸素などを透過して発光体を劣化させ寿命を短くしてしまうため、製品化にはフレキシブルな封止層あるいは封止が不要な技術が必要となる。
寿命
発光体の有機物は通電及び酸素や湿気の影響により徐々に劣化して輝度が低下する。この問題は発光体の研究と空気から遮断する封止技術により急速に改善されてきており、最新の各社製品では10000時間~30000時間といったモバイル機器には十分な寿命を確保できる水準に達してきている。
コスト
原理的には液晶ディスプレイより単純な構造が可能であるため、液晶ディスプレイより製造コストが下がる事が期待されている。発光層の膜厚はTFT薄膜デバイスより薄い為、パーティクルの削減が重要な課題となるであろう。
大型化
大型化するとドット落ちや全体の均質化などの問題により、歩留まりが悪化する。また、大型化で課題の多いパッシブ駆動を避けてアクティブ駆動を採用するためには多数の製造技術と大きな設備投資が必要になる。液晶の大型化と同様、着実な不良原因の解析と対策が必要になると思われる。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』